Booklog出会い編 『本屋、はじめました』 新刊書店 Title 開業の記録

長く独身貴族を謳歌して、晩婚晩産で子育て期に突入した私にとって、
「いつでも好きなときに、好きな場所に出かけられる」生活から、
「一日のうちに、達成すべきミッションを果たすために、動線を最適化する」生活
への転換は、衝撃的なパラダイムチェンジでした(少々大袈裟ですな・・)。

自分の生活圏内で、インスピレーションを与えてくれる場所を探索することは、
それはそれで刺激的であるはずですが、「子供の頃から住み慣れた土地だから」
とおごり心が邪魔するせいか、飛び回れないことへのストレスが勝っていました。

そんなとき、近所に素敵な本屋を発見しました。古い民家を改装して建てたという
この本屋に不思議な魔力を感じて、引き寄せられるように中にお邪魔しました。

その中で出会ったのが、『本屋、はじめました』

近所に、こんな素敵な空間を設けてくれた店主さんはどんな人なんだろう、と
ドキドキしながら、そのご本人と思われるレジに立つ男性に、
「これ、ください」と言って買わせていただきました。

本屋、はじめました | Title WEB SHOP

この本は、Titleを始めるまでの店長辻山さんの人生の軌跡と、「本屋をはじめてみたいなぁ」という人へのガイドブックが一緒になった本です。

書店で働こうと考えたとき、真っ先に思い浮かんだのが、リブロ池袋本店でした。書店の本棚を編集するという仕事は、リブロが最も先鋭的に行っているように見え、そのような空間を自由につくることができるということは、本そのものをつくる仕事に劣らず魅力的に見て、何より自分に合っていると思えました。

 「書店員」という職種に魅力と誇りを感じ、その文化が後退し始めたリブロの中で、リブロらしさを回復していくプロセスを、福岡、広島、名古屋、池袋本店で、各地の関係者と試行錯誤のなかで走り抜けた辻山さん。それは、Titleを始めるための必然であったと語ります。

なぜ「新刊、カフェ、ギャラリー」なのか

個人で古本屋を開業する人は多いが、新刊書店を始める人は少なく、珍しがられます。自分は新刊書店でずっとやってきたので馴染みがあるし、何より「今、生きている人に対して本を売りたい」「こういう考え方もあるよ」「これは知っておいたほうがよい」などという思いを、本を通して店に来る人に届けたい。

Titleにカフェをつくろうと思ったのは、妻という存在を抜きにしては考えられません。カフェがあることで、お客様はゆっくりとした時間を過ごし、次第にその店の空気に馴染んでいき、緊張感がほぐれて顔も緩んできます。 

リブロでの経験から、ギャラリースペースも店には必要なものだと思っていました。本にはお金を出さないが、イベントにはお金を出す人は意外に多い。それは登壇者から受け取る熱量、そこにいて話しているライブ感にお金を払っているからだと思います。

 Titleはとってもコンパクトな空間に、新刊書籍、カフェ、ギャラリーが詰まっています。近所に住み、好きな喫茶店としてTitleを挙げる詩人の谷川俊太郎さんは、「Titleは、今の時代の新しい流動的なサロンになっていくかもしれません」と表現しているそうです。“一つの場所に本を中心として人が集まる”は、店主辻山さんのめざすところであるそうで、私もこの世界観に引き込まれているのだと思います。

Titleでは、ブックセレクションという仕事もやっています。 雑貨屋やカフェなど通常は本を扱っていないのだけれど、本を置いてみたいという店から以来を受けて、その店にあうような商品を選び並べるという仕事です。

 これいい!

本書では、西荻窪にあるブックカフェ「松庵文庫」やTORAYA Cafeでイベントに合わせたブックセレクションを行い、選んだ本を店内で楽しめると同時に、コメントを載せたリーフレットをお土産にするという事例が紹介されています。

数多くの企業の図書コーナーを拝見してきましたが、選書にしろ、新陳代謝にしろ、ライフサイクル管理が大変だし、管理者のセンスが問われるようでプレッシャーになっていると感じてきました。

Photo Stockなどで有名なAmana社は、企業に美術館を持ち込む、「移動するアート空間」という仕掛けがあります。各企業の図書コーナーを、意図を持ってキュレーションする、そんなブックセレクション・サービスを、辻山さんのような方と実現できたら、と妄想が広がりました🌟