Knowledge Workerの時代から、Mind Workerの時代へ

私は、日本を代表する経営思想家、野中郁次郎先生を師匠と仰ぎ、その思想をコンサルの礎とさせていただいております。野中理論が素晴らしいと思うのは、知を生み出す主体としての人間を中心に経営を考えるという思想です。

経営の中心である人間を、野中先生はKnowledge Workerと呼んでこられましたが、Knowledgeという言葉は、形式知つまり客観的な知識の側面が強く意識される印象があります。野中先生は、現象学の研究者山口一郎氏との共著『直観の経営』で、近年の戦略論が客観的・分析的な側面が支配的になっていると指摘して、暗黙知という考えを提唱したマイケル・ポランニーの言葉を多く引用しています。

「人はつねに言葉にできることよりも多くを知ることができる。個人が持つ知識には、言葉で表現できる部分と、言葉で表現できない部分があり、前者よりも後者のほうが多くを占めている」(後者を暗黙知と定義)

ポランニー自身も、カール・パポーに代表される客観的で科学的な形式知のみが知識であるという偏見から脱却することをめざして、50歳にして物理化学者から科学哲学者に転じ、「すべての知識は暗黙的か暗黙知にねざす」「身体性に根ざす信念や主観こそが知識の源泉である」と主張したといいます。

身体感覚(bodily senses)を通して無意識でとらえたコトを、意識的に言語化したり、イメージ化して、無意識と意識を交互に駆使する、これらを包括する母体が、「心(mind)」とも考えられる 

 脳科学は、この「身体化された心(embodied mind)/拡張された心(extended mind)」という現象学の影響を受けたアプローチが主流になっているとし、心と身体を分けるデカルト以来の心身二元論に対峙する考え方への着目が高まっていると示唆しています。

野中理論の中心的実践者の一人である、スウェーデンの知的資本経営論者レイフ・エドビンソンは、「Knowledgeの時代からMindの時代に転換する」として、心や意識の時代が到来しているといいます。

コンピューティングパワーは、 ナレッジ時代の珠玉の賜物かもしれないが、私たちが次にどう生きるかがさらに重要である(『イノベーション全書』紺野登著)

 主観と客観の循環から知識は生まれる、という原則のもとに、より客観の知を主観という目的の知がどう活かすのか、という観点が問われる時代になっているようです。Knowledge WorkerからMind Workerへと主役がシフトする時代の、人を中心とする経営、場について、ひきつづき探索していきたいと思います。